2024年10月11日金曜日

【学術集会参加報告】アジア保全医学会2024

Twin Towerからみるウランバートル市街の夜景

モンゴル国の首都,ウランバートルで開催されたアジア保全医学会 (ASCM) の2024年集会に参加してきました。

17th Asian Society of Conservation Medicine Conference, Ulaanbaatar, Mongolia
"Living in Harmony with Nature: Wildlife, Human and Ecosystem Interface"

会期    2024年9月30日〜10月4日
会場    School of Veterinary Medicine, Mongolian University of Life Sciences


会場キャンパスを散策する市民

アジア保全医学会は "One Health",地球上に暮らすヒト,動物,自然環境の健康は一つにつながっている,の概念のもと,家畜・野生動物の保全に携わる人たちの団体です。毎年この時期にアジア各国持ち回りで学術集会が開催されます。2024年度はアジア各国はもちろんのこと,オーストラリア,アフリカ,ヨーロッパ,アメリカ大陸から160名を超える会員がここ,晩秋のウランバートルに集いました。

市街地公園の緑地に憩うカササギ (Pica pica)


モンゴルの広大な草原では2000年以上にわたってヤギ,ヒツジ,ウマ,ラクダなどの遊牧が営まれてきました。高山砂漠や平原の豊かな自然界と人々の営みが一定のバランスをもって
 ネットワークを構築し,豊かでユニークな生態系が維持されています。しかし近年の経済発達と人口増加,地球温暖化に伴って家畜の数が急増し,そのバランスがいま崩れようとしています。

国をまたいで伸びる石油・ガスのパイプライン,草原を横切る道路,放牧地の境を示す有刺鉄線を張った柵など,ヒトの経済活動により自然界には存在しない「直線」が急速に増えています。野生動物の行動はこの直線で制限され,変化を強いられ,また時には交通事故や柵への激突で生命が奪われています。道路を跨いだり,潜ったりする動物用通路の建設や,安全な策の模索が続けられていますが,マンパワーや予算の制限があってその成果は限定的です。

家畜と野生動物のコンタクトの機会が増加し,相互の感染症も顕在化してきました。ダニの媒介するバベシア,タイレリアによる貧血は深刻な病態を引き起こします。

人々の豊かな生活の原動力となる経済活動は止めることはできません。その豊かな果実の享受と生態系の保全は背反するニ律ではないはずです。生態系の健康は動物とヒトの健康に直結しているのです。モンゴル平原の豊かな自然は渡り鳥たちにとって貴重な経由地です。毎年多くの渡り鳥がモンゴルを経由してシベリアと東南アジア,日本を往復しています。私たち日本人もこの問題に無関心ではいられません。アジア保全医学会に参加し,アジアの現状と問題解決への取り組みに目を向けてみては如何でしょうか。来年,2025年は半島マレーシア,コタバルで開催されます。

18th ASCM Conference 2025

Kota Bharu, Kelantan, Malasia

19 - 24th October 2025

2024年度集会で優秀発表賞を受賞した若手メンバー

[板垣 伊織]

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